子ども家庭福祉ソーシャルワーカー(仮称)資格創設へ [社会福祉]
子ども家庭分野のソーシャルワーカー資格として「子ども家庭福祉ソーシャルワーカー(仮称)」の資格が創設されることになった。
■ 現状は二階建て構造現在、ソーシャルワーカーの国家資格としては、1987年に社会福祉士と介護福祉士、1997年に精神保健福祉士の資格ができた。三つあるので、三福祉士と呼ばれる。
このうち、社会福祉士と精神保健福祉士は、共通している科目が多い(それぞれ18・17科目群中11科目が共通である)。片方の資格を持っている人が、もう一方の資格を取得する場合には、共通科目は試験科目が免除されるので、残りの「専門科目」のみ履修して受験すれば良い。
共通科目の上にそれぞれの専門科目が載る二階建ての構造になっているわけだ。将来的にこの二つの資格が一つにまとまる可能性はゼロではなさそうだが、実現性はまだまだ不透明だ。一つの資格に統合された場合に、この二階建て構造がどう変わるのか、その具体像はまだ描き出されていない。
この二階建て構造が、新たに子ども家庭分野の資格を作るにあたって、話をややこしくしたのである。
■ 子ども家庭福祉士の案ふたつ一つは、社会福祉士・精神保健福祉士と並列して子ども家庭分野の福祉士資格を作る案が出された。二階建ての構造はそのままにして、共通科目+子ども家庭分野の専門科目の組み合わせということになる。
別の案は、上乗せして三階建てにするものだ。つまり社会福祉士・精神保健福祉士が、さらに子ども家庭分野について学んで取得する資格にするのである。これについては(資格ではないが)既に実績がある。スクールソーシャルワーカーのために、社会福祉士・精神保健福祉士が受講できるスクールソーシャルワーク教育課程が設けられている。また、同じく社会福祉士・精神保健福祉士が成年後見人になるための研修制度がある。どちらも試験がある資格制度ではないが、そのような養成制度が稼働している実績があるわけだ。
■ 社会保障審議会での議論
検討の舞台となってきたのは、厚生労働省の社会保障審議会(児童部会社会的養育専門委員会)だ。
2020年から21年にかけて、その子会議である「子ども家庭福祉に関し専門的な知識・技術を必要とする支援を行う者の資格の在り方その他資質の向上策に関するワーキンググループ」で議論が行なわれてきた。
ところが、年度末が近づいた2021年1月の最終会議でも二つの案のどちらにするか決着が付かず、両論を併記して「引き続き検討していく」ということになった。(2021年2月2日会議の資料「とりまとめ」)
というわけで、次の年度(2021年度)では親会議(社会的養育専門委員会)のほうで検討が行なわれることになった。業界団体へのヒアリングを経た上で、最終的には「上乗せ案(三階建て)」が選ばれた。そして、国家資格ではなく民間資格となった。
■ 情報のまとめ
■ ニュース報道
新資格「子ども家庭福祉ソーシャルワーカー」 民間資格で決着 - 福祉新聞
https://www.fukushishimbun.co.jp/topics/27165
【厚生労働省】児童虐待対応の新資格 「ぎりぎりの妥協点」で決着 - 財界ONLINE
https://www.zaikai.jp/articles/detail/1408
新資格「子ども家庭福祉ソーシャルワーカー」創設へ - テレビ朝日
https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000244939.html
自民党の一部議員の意見を反映して「施行後2年をめどに国家資格化を検討する」という付則が付けられることになった。
また「厚労省は再来年4月の施行を目指し今国会に提出する児童福祉法の改正案に盛り込む予定」とある。
■ その後の政府と国会の動き
首相官邸のサイトによると、3月4日の定例閣議で児童福祉法等の一部を改正する法律案を決定したとある。
現在は第208回の通常国会が開かれている真っ最中だ。
衆議院の議案一覧で、第208回に提出された閣法の中を探すと、「児童福祉法等の一部を改正する法律案」が提出されている。3月4日に衆議院に提出され、4月中旬現在「衆議院で審議中」となっている。それによると、
児童福祉法の第十三条第三項は、児童福祉司の任用資格を規定するが、その先頭に、
この内閣府令が「子ども家庭福祉ソーシャルワーカー」に相当するのだろう。
そして、付則の第二条に「国家資格を含め、この法律の施行後二年を目途として検討を加える」とある。
■ 終わりに
政治の現場をまざまざと見せつけられる展開であった。大学などに子ども家庭福祉士の養成コースを設けて国家資格化することを望んでいる人も少なくなかったのだろう。しかし、前回述べたようにソーシャルワーカーを目指す学生が減りつつある中で、社会福祉士と精神保健福祉士の養成コースと学生を奪い合うような結果になれば、結局その養成コースは成り立たないと判断されたのだろう。
閣法は9割が成立するし、特に野党が反対しているとも聞かないので、会期末までに成立し、早ければ2024年度には新資格の運用が始まるだろう。
■追記 (2023-2-22追記)
子ども家庭福祉ソーシャルワーカー資格の制度化 のエントリを追加した
■ 現状は二階建て構造現在、ソーシャルワーカーの国家資格としては、1987年に社会福祉士と介護福祉士、1997年に精神保健福祉士の資格ができた。三つあるので、三福祉士と呼ばれる。
このうち、社会福祉士と精神保健福祉士は、共通している科目が多い(それぞれ18・17科目群中11科目が共通である)。片方の資格を持っている人が、もう一方の資格を取得する場合には、共通科目は試験科目が免除されるので、残りの「専門科目」のみ履修して受験すれば良い。
共通科目の上にそれぞれの専門科目が載る二階建ての構造になっているわけだ。将来的にこの二つの資格が一つにまとまる可能性はゼロではなさそうだが、実現性はまだまだ不透明だ。一つの資格に統合された場合に、この二階建て構造がどう変わるのか、その具体像はまだ描き出されていない。
この二階建て構造が、新たに子ども家庭分野の資格を作るにあたって、話をややこしくしたのである。
■ 子ども家庭福祉士の案ふたつ一つは、社会福祉士・精神保健福祉士と並列して子ども家庭分野の福祉士資格を作る案が出された。二階建ての構造はそのままにして、共通科目+子ども家庭分野の専門科目の組み合わせということになる。
別の案は、上乗せして三階建てにするものだ。つまり社会福祉士・精神保健福祉士が、さらに子ども家庭分野について学んで取得する資格にするのである。これについては(資格ではないが)既に実績がある。スクールソーシャルワーカーのために、社会福祉士・精神保健福祉士が受講できるスクールソーシャルワーク教育課程が設けられている。また、同じく社会福祉士・精神保健福祉士が成年後見人になるための研修制度がある。どちらも試験がある資格制度ではないが、そのような養成制度が稼働している実績があるわけだ。
■ 社会保障審議会での議論
検討の舞台となってきたのは、厚生労働省の社会保障審議会(児童部会社会的養育専門委員会)だ。
2020年から21年にかけて、その子会議である「子ども家庭福祉に関し専門的な知識・技術を必要とする支援を行う者の資格の在り方その他資質の向上策に関するワーキンググループ」で議論が行なわれてきた。
ところが、年度末が近づいた2021年1月の最終会議でも二つの案のどちらにするか決着が付かず、両論を併記して「引き続き検討していく」ということになった。(2021年2月2日会議の資料「とりまとめ」)
というわけで、次の年度(2021年度)では親会議(社会的養育専門委員会)のほうで検討が行なわれることになった。業界団体へのヒアリングを経た上で、最終的には「上乗せ案(三階建て)」が選ばれた。そして、国家資格ではなく民間資格となった。
■ 情報のまとめ
- 名称は子ども家庭福祉ソーシャルワーカー(仮称)
- 子ども家庭福祉指定研修(100時間程度)を受講の上で、試験に合格することで資格が得られる。
- 社会福祉士や精神保健福祉士として2年以上の実務経験が必要。
- 現任者への経過措置(当分の間):
①子ども家庭福祉分野で4年以上の実務経験を持つ者。
②保育士で4年以上の実務経験を持つ者(対象となる範囲は今後検討)。
どちらもソーシャルワークを学ぶ研修の受講が必要。 - 研修の認定や試験の実施は国の基準を満たした認定機構が実施する。
- 福祉系大学などで学ぶ学生が新資格を取得できるルートは設けない。
- この新たな認定資格は、児童福祉司の任用要件を満たすものとして児童福祉法上位置づけられる。
(2022年2月3日会議資料の資料2の図を加工した)
■ ニュース報道
新資格「子ども家庭福祉ソーシャルワーカー」 民間資格で決着 - 福祉新聞
https://www.fukushishimbun.co.jp/topics/27165
【厚生労働省】児童虐待対応の新資格 「ぎりぎりの妥協点」で決着 - 財界ONLINE
https://www.zaikai.jp/articles/detail/1408
新資格「子ども家庭福祉ソーシャルワーカー」創設へ - テレビ朝日
https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000244939.html
自民党の一部議員の意見を反映して「施行後2年をめどに国家資格化を検討する」という付則が付けられることになった。
また「厚労省は再来年4月の施行を目指し今国会に提出する児童福祉法の改正案に盛り込む予定」とある。
■ その後の政府と国会の動き
首相官邸のサイトによると、3月4日の定例閣議で児童福祉法等の一部を改正する法律案を決定したとある。
現在は第208回の通常国会が開かれている真っ最中だ。
衆議院の議案一覧で、第208回に提出された閣法の中を探すと、「児童福祉法等の一部を改正する法律案」が提出されている。3月4日に衆議院に提出され、4月中旬現在「衆議院で審議中」となっている。それによると、
児童福祉法の第十三条第三項は、児童福祉司の任用資格を規定するが、その先頭に、
「児童虐待を受けた児童の保護その他児童の福祉に関する専門的な対応を要する事項について、児童及びその保護者に対する相談及び必要な指導等を通じて的確な支援を実施できる十分な知識及び技術を有する者として内閣府令で定めるもの」という規定が加えるとある。
この内閣府令が「子ども家庭福祉ソーシャルワーカー」に相当するのだろう。
そして、付則の第二条に「国家資格を含め、この法律の施行後二年を目途として検討を加える」とある。
■ 終わりに
政治の現場をまざまざと見せつけられる展開であった。大学などに子ども家庭福祉士の養成コースを設けて国家資格化することを望んでいる人も少なくなかったのだろう。しかし、前回述べたようにソーシャルワーカーを目指す学生が減りつつある中で、社会福祉士と精神保健福祉士の養成コースと学生を奪い合うような結果になれば、結局その養成コースは成り立たないと判断されたのだろう。
閣法は9割が成立するし、特に野党が反対しているとも聞かないので、会期末までに成立し、早ければ2024年度には新資格の運用が始まるだろう。
■追記 (2023-2-22追記)
子ども家庭福祉ソーシャルワーカー資格の制度化 のエントリを追加した
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