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2024割れ問一覧 第36回社会福祉士・第26回精神保健福祉士 [社会福祉]

3月8日更新:正答を反映させた。

社会福祉士や精神保健福祉士の試験後には各社から解答例が発表され、受験者はそれを見ながら自己採点を行う。
だが、正答が会社ごとによって異なることがあり、受験者を悩ませるのである。
いわゆる「割れ問」である。
その割れ問の実態を把握するのがこのエントリの目的である。
ちなみに昨年は精神保健福祉士の専門科目のみチェックしたが、
今年は、社会福祉士・精神保健福祉士の共通・専門科目すべてをチェックした。
(たぶんこんなことやっている人は他にいない)

社会福祉士試験の解答例を発表しているのは、
藤仁館
ケアサポ(中央法規)
赤マル福祉
広島福祉
ふくし合格
カイゴジョブ
フチガミ
大原学園
ユーキャン

精神保健福祉士試験の解答例を発表しているのは、
藤仁館
ケアサポ(中央法規)
赤マル福祉
広島福祉
ふくし合格
カイゴジョブ
フチガミ

■ 共通科目

さて、共通科目には割れ問はなかった(すごいじゃないか!)。

■ 社会福祉士専門科目

1問だけ。

問題101:行動変容アプローチ
×4 ベルの音と作業を条件づける
 ケアサポ・カイゴジョブ
5 先行条件と結果を分析する
 藤仁館・赤マル福祉・広島福祉・ふくし合格・フチガミ・大原学園・ユーキャン

■ 精神保健福祉士専門科目

割れ問が8問。全80問中の一割が割れ問というのは受験者にとっては悩ましい。

問題27:権利擁護の調整機能
×1 生活困窮者自立支援事業の情報提供
 ケアサポ・カイゴジョブ
5 消費生活センターへつなぐ
 藤仁館・赤マル福祉・広島福祉・ふくし合格・フチガミ

問題32:当事者の情報発信
1,4 ソーシャルインクルージョン+コンシューマー・イニシャティブ
 ケアサポ・赤マル福祉・広島福祉・ふくし合格・カイゴジョブ・フチガミ
×1,5 ソーシャルインクルージョン+アクセシビリティ
 藤仁館

問題40:IMR(疾病管理とリカバリー)
2 ストレス-脆弱性モデル
 ケアサポ・赤マル福祉・広島福祉・ふくし合格・カイゴジョブ・フチガミ
×4 オーダーメイド
 藤仁館

問題43:社会リハビリテーションにおけるアセスメント
2 利用可能な福祉サービス事業所の状況把握
 藤仁館・ケアサポ・赤マル福祉・広島福祉・ふくし合格・カイゴジョブ
×4 地域のネットワークを確認
 フチガミ

問題52:クライアントの不安解消
4 危機介入アプローチ
 ケアサポ・赤マル福祉・広島福祉・ふくし合格・カイゴジョブ・フチガミ
×5 心理社会的アプローチ
 藤仁館

問題55:就労支援事業所の紹介
×1 ネゴシエーション
 藤仁館・ケアサポ・広島福祉
5 リファーラル
 赤マル福祉・ふくし合格・カイゴジョブ・フチガミ

問題57:ASDの人の就労支援
2,3 作業手順書の作成・発注データの確認作業を担当
 藤仁館・ケアサポ・赤マル福祉
×2,5 作業手順書の作成・実習時間を増やす
 広島福祉・ふくし合格・カイゴジョブ・フチガミ

問題72:地域相談支援サービス
2 サービス等利用計画の作成が必要
 ケアサポ・赤マル福祉・広島福祉・ふくし合格・カイゴジョブ・フチガミ
×4 就労定着支援との併給が可能
 藤仁館

■ 全社不正解の問題

なんと、模範解答を発表した全社が間違えるという問題があった(当然割れていないので上記のリストには載っていなかった)

問題56:就労先との交渉
1 まずPSWが会社を見学する
×5 会社にクライアントの面接を依頼する
 藤仁館・ケアサポ・赤マル福祉・広島福祉・ふくし合格・カイゴジョブ・フチガミ

■ 採点

模範解答採点
会社 共通科目 社会専門 精神専門 合計
 藤仁館 83 67 75 225
 中央法規 83 66 78 227
 赤マル福祉 83 67
78 228
 広島福祉 83
67
77 227
 ふくし合格 83
67
78 228
 ガイゴジョブ 83
66
76 225
 フチガミ 83 67
76 226
 大原 83
67
- 150
 ユーキャン 83
66 - 149

太字は満点を示す。精神の専門科目に満点はなかった。

1位 228点(-2点) 赤マル福祉・ふくし合格
3位 227点(-3点) 中央法規・広島福祉
5位 226点(-4点) フチガミ
6位 225点(-5点) 藤仁館・カイゴジョブ

なお、大原とユーキャンは精神保健福祉士の模範解答は扱っていない。

というわけで、今年の優勝は赤マル福祉・ふくし合格だった。

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なぜ支援のために診断(病名)が必要なのか [社会福祉]

社会福祉の中でも、とくに精神保健福祉の領域では、診断を行って病名をつけることに抵抗を感じる人が少なくないようだ。

もちろん現在の日本では病気の診断は医師だけができることで、ソーシャルワーカーが診断をするわけではない。しかし、知識と経験から「おおよそのあたりをつける」ことは必要であるし、しなければならないことだ。そうでなければ、受診を勧めることができず、病気をみすみす悪化させてしまうことになりかねない。特に、統合失調症では初期段階で集中的に薬物治療を行えるかどうかが予後を大きく左右する。

そのように必要とされていることであるにも関わらず、診断が行われることに抵抗を感じるのはなぜだろうか。

一つには、診断主義的アプローチ(医療モデル)に対する批判がある。病気の治療をサポートすることも必要だろうが、ソーシャルワークは原因(この場合は病気)を突き止めて解決するよりも、それによって生じてきた生活上の困難の解決をサポートしていくべきだとする考え方である。そうであれば、診断は必ずしも必要ない。

もっと大きな理由は、精神科領域の病気が持つスティグマ(差別的属性)だろう。メンタルな病気には必ず社会の偏見がつきまとっていると言っても過言ではない。精神分裂病が統合失調症と改められたのも、少しでも偏見を減らすためだった。「医者からは鬱だと言われています」と言う人がは実は統合失調であることも珍しくない。医師が病名を告知しないのは、スティグマが原因で告知が治療的にプラスに働かないと判断しているからである。鬱病に対するスティグマはずいぶん減ったが、それでも鬱病の診断書を会社に提出するのは、身体科の病気の診断書を出すよりもためらわれる。自閉症スペクトラムよりもADHDという診断を好む人が多いのも、自閉症という病名につきまとうイメージの悪さゆえだろう。

診断を行うことはラベルを貼ることであるが、同時にスティグマも貼り付けてしまうことは避けられない。であるならば、医学的な治療を行う場合はともかくとして、他の場面では診断情報なんか要らないではないか、という考えるのも当然だろう。

診断が必要とされる理由は、それによって医学的な治療や病気によって生じる困難の解決サポートが必要になる、というだけの理由ではない。そのような治療や支援が公的な資金によって行われているからだ。社会保障の制度は、強制的に徴収される保険料や税金を原資にしている。である以上、その資金は公平・公正に使われなければならない。誰かのために恣意的に使われればそれは腐敗であり、腐敗がまかり通ればその社会制度は維持できなくなってしまう。

だから、社会保障は公平性を保つことが大切なのだ。「この人は可哀想な事情があるから支援の対象にし、この人は自業自得だから支援の対象にしない」といった判断が支援者の個人レベルで行われたのでは、公平性が保てない。極力公平性が保たれるように制度を設計し、組織的に運用しなければならない。その一つが診断の適用なのだ。

この人は病気が原因で困難に陥っているので支援の対象としている、そして病気であるかどうかは科学的な根拠にもとづいて決められた診断基準によって訓練された医師が行っている、ということが、公平性の説明になっているわけである。

したがって、公的な資金を原資としない支援であれば、診断はかならずしも必要とされない。例えば、独立開業している心理カウンセラーにかかるのに健康保険制度は使えず、全額自己負担になる。だからこそ、カウンセラーは診断はしない。医師ではないから診断できないという事情もあるが、する必要がないからでもある。また、困窮者向けに炊き出しを行う際にも、診断などを要求しない。これも、炊き出しはたいてい善意の寄付を原資にしているからである。

このように、診断を必要とするのは、支援が公的な資金を原資にしているため、公平性を担保しなければその制度が維持できなくなるからである。
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やまゆり園事件と死刑の存廃 [社会福祉]

相模原障害者施設殺傷事件(やまゆり園事件)とは、2016年7月26日に、神奈川県の社会福祉法人が運営する知的障害者施設「津久井やまゆり園」に元職員の男が侵入し、45人を殺傷(うち施設入所者19人が死亡)したという大量殺人事件だ。

その事件の内容については当時大きく報道され、現在でもネット上に多くの情報が見つかるので、事件について詳述するのは避ける。それらの多くは、犯人の動機は何だったのか、知的障害者には生きる価値がないのか、といった観点から事件を論じている。が、今回注目するのはそこではない。

犯人には第一審で死刑判決が下され、弁護人が控訴したが、本人が取り下げたことにより死刑が確定した。その後本人が再審を請求している。

裁判で争点になったのは責任能力の有無だった。検察が行った精神鑑定では、パーソナリティ障害が認められるが責任能力はありとし、弁護側の精神科医は犯行当時は大麻精神病の状態にあり、現在もその症状が持続している可能性があるとした。結果としては、責任能力を認めて死刑判決が下され、控訴取り下げによって第二審で争われることなく決着した。

大麻精神病(Cannabis-induced psychotic disorder、大麻誘発性精神病性障害)とは、大麻の使用によって精神障害が引き起こされたものだ。WHOの定めるICD(国際疾病分類)にも、APA(アメリカ精神医学会)の定めるDSM(精神障害の診断と統計マニュアル)にも記載されている。

ただし、大麻が特に危険な薬物というわけではない。大麻精神病は、ICDやDSMでは、物質使用の障害という大項目のなかにある。この大項目の中には、アルコール・覚醒剤・ヘロインなどの「薬物」に関して起こる精神の病気が集められている。その中には依存症や急性アルコール中毒もある。だから、大麻精神病だけでなく、アルコール精神病や睡眠薬精神病もある。だから、大麻だけが精神障害を誘発する危険な物質というわけではなく、飲酒によって精神障害が引き起こされる場合もあるわけだ。

さらに、この物質誘発性の精神障害は、それほど頻度が高いものではなく、DSMでもICDでも依存症や離脱の説明に費やされているページ数に比べると、割かれているページ数はごく少ない。ついでに、DSMの物質関連障害にはカフェインやタバコも含まれているが、カフェイン誘発性の精神障害や、タバコ誘発性の精神障害は記載されていない。これはつまり、コーヒーを飲んだりタバコを吸ったりする程度で、精神病が引き起こされると言えるだけの根拠がないということだ。

だから、大麻だけが精神病を誘発する危険な物質というわけではないが、だが確かに大麻精神病(大麻誘発性精神病性障害)は存在するのである。

犯人は最初から大量殺人を考えていたわけではなさそうだ。むしろ、障害者施設で働くことを前向きにとらえ、記録を熱心につけ、上司に対して改善の提案も行っている。しかし、やがて施設をやめ、犯行に及ぶ。そして、その後は「意思疎通の取れない人間は安楽死させるべきだ」という主張を繰り返すのである。その変化は、大麻の連用が引き起こしたものなのかもしれない。

もし大麻精神病を認め、心神喪失による無罪判決、あるいは心神耗弱による減刑が行われたとしたらどうだったであろうか。無抵抗の19人もの人間を殺した人間が無罪となったら、遺族はもちろん、一般大衆も納得しないだろう。また、大麻はそのような人格の変容を起こしうる大変危険な薬物だという印象が社会全体に広まることになっただろう。

それを踏まえれば、例え犯人が大麻精神病だったとしても、それを認め、それを理由に無罪にすることは社会的影響が大きすぎる、ということになる。裁判所の判断にはそのような事情が影響した可能性がある。このまま彼は死刑になる可能性が高い。

しかし私は思うのである。そのような社会の側の事情によって、無罪でありうる人が死刑に処される。これは正しいことなのだろうか。功利主義的に考えれば、一人の人間の犠牲はやむなしとなるのだろうが、どうも釈然としないものがある。

私は長いこと死刑廃止を積極的に支持してこなかった(消極的な支持に留まっていた)。それはやはり人々の処罰感情の強さを考えてのことである。しかし、やまゆり園事件の死刑確定によって、私は考えを変え、死刑廃止を積極的に支持するようになった。

1964年のライシャワー事件の後、精神衛生法が改正され、多くの精神障害者が劣悪な環境の精神病院に閉じ込められることになった。社会の安全のためには精神障害者が犠牲になるのはやむを得ないと考えられたわけだ。やまゆり園事件の犯人の主張は到底支持できない。しかし、そんな彼には死刑が相応しいと考えるのは、彼の考えを肯定することになる。彼の考えを否定するためにも、死刑は廃止されるべきだと考えるのである。
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第6回公認心理師試験の合格率の低さ [心理の資格]

第6回公認心理師試験の結果が発表された。

【令和5年6月9日14時】第6回公認心理師試験(令和5年5月14日実施)合格発表
https://www.jccpp.or.jp/shiken.cgi#exam_001_anchor_10

受験者数2,020人、合格者数1,491人、合格率は73.8%であった。私はその数字を聞いたとき、わが耳を疑った。「低すぎるだろ!」

確かに、昨年第5回の合格率48.3%に比べれば大幅に上昇したと言える。だがそれは、区分Gの人たちが合格率を下げていたからである。確かにGルートは合格率が低かった。第1回だけはGルートも7割を超える合格率だったが、その後は5割前後の合格率で推移した(第1回はおそらく科目の読み替えができずに区分Dで受験できなかった人たちがやむなく区分Gで受けたのだろう)。Gルートが合格率を下げている面があったのは確かであるし、それがGルート批判の根拠の一つでもあった。

そのGルートがなくなった第6回は、合格率が当然9割を超えると予測していたのである。9割に達しなかったとしても、余裕で8割は超えてくるはずだ。医師や看護師の国家試験の合格率は9割程度である。新卒の合格率が9割半ばに達し、それを既卒が下げているという構図は他と共通しているが、新卒の合格率が高いので、既卒の合格率が低くても、全体の合格率への影響は大きくないのである。

公認心理師試験も、第6回からは大学院卒の人たちが受験者の大半を占めるようになる。当然同じような合格率になるはずだと思っていたのだが、予想に反して7割しか受かっていないのである。いったい何が起きたのだろうか? 発表資料からその内情を探ってみよう。

公認心理士の受験資格取得ルート

受験者数が約2,000人というのは予想通りであった。第5回試験は約3万3千人も受験したが、Gルートを除けば受験者数は2,142人に過ぎなかった。だから第6回もその程度になると予想したし、実際その通りになった。

第6回からは特例処置ではない区分AおよびBが受験者の中心を占めると思っていたのだが、AとBを合わせても60人しか受験者がいなかった。だがこの区分の合格率は9割を余裕で超えた。公認心理師を輩出する教育機関としての面目を保ったと言える。

区分Gに代わって受験者の中心を占めたのが区分Eである(実に約4分の3がEルートの人たちだ)。これは学部については科目の読み替えを行い、大学院では公認心理師のカリキュラムを学んだ人たちだ。第3回試験から登場した彼らの合格率は平均約8割である(新卒既卒を分けた数字は発表されていない)。この数字を高いとみるか、低いとみるかは人それぞれだろうが、心理学科が医療系の資格に引けを取らない教育を授けている・受けていると主張したいのなら、9割に達しなければならないだろう。

区分Eよりさらに合格率が低いのは、区分D1およびD2の人たちだ。これは公認心理師法の施行時点(2017年)には心理系の大学院を卒業していたか、あるいは在学中で、科目の読み替えによって受験資格を得たケースだ。この人たちは第6回の受験者の2割にすぎないのだが、合格率は5割以下とGルート並みで、全体の合格率を引き下げている。ただ、Gルートの場合には、次から次へと新しい受験者が現れたのに対し、Dルートの場合には新卒で受験する人はもういないはずだ。つまり、いまDルートで受けている人たちは全員既卒で、複数回受験している人たちだけなのである。

まとめると、公認心理師試験は、新卒でも合格率がそれほど高くない上に、それが原因で既卒受験者の比率が高いことが全体の合格率を下げているのである。

地方の医大では国家試験の対策授業が念入りに行われているという。それは、医師が業務独占の資格で、資格を得なければ医業ができないからである。だから当然医学部同士、合格率を競うことになる。心理の場合は資格がなくても仕事はできるが、それでも心理の大学院はもっと国試対策を学生に念入りに施して合格率を上げるべきだ。なぜなら、合格率の低さは、高校生たちにその道を選ぶことをためらわせるからだ。

区分A(およびB)が受験者の中心になるのは、来年以降なのだろう。区分Eの人たちは遅くとも2017年の春までに大学に入学している。その人たちは順当に行けば2023年春に受験資格を得るはずで、それが今年の受験者の中心を占めたわけだ。(何らかの事情で学業が遅れた人を除けば)来年以降は新卒と言える人はいなくなり、区分Eの受験者は大幅に減るはずだ。

受験者が区分AとB中心になるであろう来年の合格率はどうなるのだろうか・・。

■こども家庭ソーシャルワーカーの資格制度は2024年度から

ところで、こども家庭ソーシャルワーカーの資格制度は見込み通り2024年度から始動するようだ。

【厚生労働省】児童虐待へ対応する職員らの資質向上に向けて認定資格https://news.mynavi.jp/techplus/article/20230425-2664338/
> 「一定の実務経験がある保育士など有資格者が、国の要件を満たす認定機関の研修を経て、資格を取得する仕組みを2024年4月から導入する。」

新資格取得にインセンティブを 全国児童家庭支援センター協議会が要望
https://news.yahoo.co.jp/articles/5c90d89c4133867402bea0a7771a15a06918be80
> 「同庁(こども家庭庁)は来年度から新たにこども家庭ソーシャルワーカーの資格の養成を開始する」

所管はこども家庭庁なのか。

追記:
厚生労働省の検討会のとりまとめが、案取れになっていた。
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-kodomo_554389_00026.html
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精神保健福祉士試験に合格 [社会福祉]

社会福祉士の試験を受験したのは2年前だった。その合格発表は3月だったが、2月末までに精神保健福祉士の短期養成課程の申込みを済ませねばならなかった。その顛末は

教育訓練給付金制度を使う
https://utsubotsu2.blog.ss-blog.jp/2021-04-10

に書いた。もう二年前のことだ。

[短期養成課程雑感」

4月から短期養成課程が始まった。レポートは最初の3か月が5科目6本。次の3か月に7科目8本。
スクーリングは最初の回が金・土・日、次が土・日・月の合計6日間だった(実習がある人は+2日)。

社会福祉士受験時のスクーリングが結構楽しかったので、今回も期待していたのだが、少々期待外れだった。一つは新型コロナの影響で、会場に来られない講師の人がいて授業がビデオ配信になってしまったことなど、せっかくの面接授業なのにそのメリットがなかったことだ。
もう一つは、グループワークがあっさりしたものだったことだ。これには理由がある。短期養成課程はそのほとんどが社会福祉士の資格をすでに持っている人だ(わずかに短大卒+実務経験の人が混じっている)。この課程の合格率も100%に近い。皆さん「資格を取る」という動機が明確で、演習も1日だけで終わったので、受講者間の交流も少なかった。社会福祉士の一般養成課程にあった「せっかく知り合ったんだから、ここでネットワークを作りましょう」という声かけもなく、休み時間に講師に質問している人もいなかった。

短期養成課程の期間は9か月(4月から年末まで)とされているが、レポートもスクーリングも半年(9月末まで)で終わってしまった。10月に訓練給付金の給付申請に行ったことは

専門実践教育訓練給付制度 給付申請
https://utsubotsu2.blog.ss-blog.jp/2021-10-28

に書いた。

そこで受講料22万円の半額11万円が支給されると思っていたが、そうではなかった。受講料は最初の半年に対して12万5千円、残りの3か月に対して9万5千円と按分されていたのだ。だから、10月の支給申請では最初の半年の受講料12万5千円の半額の6万2,500円が支給され、残りについては翌年の4月に改めて給付申請をしなければならないのだ。実質的には授業も課題もない3カ月に対して、9万5千円の受講料が設定されているというのも不思議なことである。たぶん給付金の仕組みに原因があるのだろう。

ともあれ、国家試験の受験申込みも済ませたので、あとは試験を待つだけとなった。

9月末に提出したレポートが11月に採点され、どの科目も合格点に達していたので、無事卒業できることになった。

[受験もできず、給付金も貰えず]

年明けには修了証書と残りの訓練給付金の申請に必要な書類が送られてきた(はずだ)。だが、このあたりから歯車が狂い始めてしまった。実は前の仕事を辞めてしまい、いまは社会福祉とは別の仕事に就いている。そちらで2月にかなり長い出張が入ってしまったのだ。もちろん、精神保健福祉士の試験受験は諦めざるを得なかった。

本業の出張準備をしているなかで、私の在宅勤務の部屋の中は、様々な書類で溢れかえった。出張前にはその書類をまとめて処分したのだが、どうやらそのなかに修了証書や給付申請に必要な書類も混ざっていたようなのである。

出張から帰ってきたら3月になっていた。受験の結果報告書には「出張で受験できなかった」と書いて学校にFAXした。ソ教連のサイトでチェックしたら、私の受講した短期養成課程の新卒の不合格者は1人だけだった。つまり自分だけだ。合格率が100%にならずに申し訳ない気持ちになった。

4月が終わりに近づいていたころ、気を取り直して、給付金の申請をしようと準備を始めた。・・・が、書類が見つからないのである。学校に電話してみたら、年明けに送っているはずですと言われた。そうだろう、見た憶えがある。しかし、どこにもない。ただ、なんとなく捨てた書類に混ぜた記憶があった。あの時は不要な書類だと思ったのだが、捨ててはいけない書類だったか。学校に再発行をお願いしようかと思ったが、すでにゴールデンウィークが迫っていた。これでは間に合わない。というわけで、4万7,500円は受給し損ねてしまった。

受験できなかったのも、給付金を得られなかったのも、自分の側の事情なので誰も責められない。

[意欲低下]

不合格だった場合でも、学校に頼んでおけば、受験情報などをときどき送ってくれる仕組みになっていた。社会福祉士受験の時は、国試対策講座や自宅で受験する模試を申し込んだのだが、今回はそれも無視してしまった。

妻が受験用のワークブックを買ってくれたが、放置していた。

ただ、受験申込みがネットで済ませられたのは楽で良かった。1回目の申込みは受験申込書などを郵送する必要があってかなり面倒なのだが、それによって受験資格が確定すれば、2年目からはインターネット経由で受験申込みができる。もちろん、これは1年目で落ちた人だけが使うわけだが・・・。18,820円をクレジットカードで払って申込みは完了した。

年が明けると妻が受験用の過去問集を買ってきてくれた。またまた2月に出張が入る可能性があったが、それはなくなり受験できることが確定した。1月末の大寒波で体調を崩し、過去問集を取り出したのは受験の直前だった。

[昨年の受験票で受験]

自宅から受験会場の東京流通センターまでは1時間半ほどだ。開場時間に合わせて着くようにしたのだが、浜松町駅でモノレールに乗るとひどく混んでいた。そのほとんどが流通センター駅で降りたので、みなさん受験者だったわけだ。

流通センターには複数のビルがあるので、敷地の入り口に受験番号別に会場を案内する紙が張り出されていた。ビルの入り口で体温チェックをするために長い列ができていた。その最後尾について進んでいったのだが、どうやら間違えて別のビルの列に並んでしまったようで、自分の番号の部屋がない。係員に聞いて別のビルへと向かい、ようやく自分の席に着いた。説明が始まる30分ほど前だ。開場時間に来ていて良かった、ギリギリだったらさぞ慌てただろうと思った。昼食に持ってきたおにぎりを二つたべ、トイレを済ませて、過去問を再チェックした。

説明が始まり、解答用紙が配られた。ところどころ空席があるのは他の試験と同じだ。受験を諦めた人の席が空いているのである。「解答用紙に自分の名前と受験番号が書いてあることを確認してください。違っていたら手を挙げてください」と言われてチェックすると、そこには知らない人の名前が印刷されているではないか。

手を挙げて待っていると、係員の人が来て、受験票や解答用紙をチェックし、さらに人を呼びにいってしまった。その間に問題用紙も配られ始めた。

3人ほど係員の人が来て、名前を確認され「受験申込みをされたんですね」と尋ねられたので、「しました」と自信を持って答えたところで気がついた。「これは去年の受験票だ!」 前の日に受験票を探したときに、去年の受験票を見つけ、よく確認しないで持ってきてしまったのだ!

「ちょっと待っていてください」と言われ、これは受験票を忘れたのと同じだから受験は無理かな、と半ば諦めた気持ちで待っていると、先ほどの人が戻ってきて「確認が取れました。受験票を再発行するので荷物を全部持って事務室に行ってください。遠いので急いでください」と言われた。

受験できるんだと安心したと同時に、急いでくれと言われて慌てた。机の上に置いてあった消しゴムや鉛筆などをわしづかみにし、コートを着る余裕もなく鞄と一緒に脇に挟んで部屋を出た。係員の後について、10分ほど歩いて別のビルに入った。そこで、運転免許証で本人確認をし、名前や受験番号が手書きされている受験票を受け取り、受験会場に走って戻った。正しい席に着いたのは、試験開始の3分ほど前だった。

そうか、受験票の再発行が現地でできるのか。もし、自分が最初に座った席に、その席で本来受験する人が座っていたらどうだっただろう? その時点で私は去年の受験票を持ってきたことに気づき、諦めて帰っていたかもしれない。ちょうどその席の人が受験を諦めていたからこそ、自分は再発行にたどり着けたと言える。

後で知ったのだが、自分とよく似たことをした人が過去にいたようだ。

第24回社会福祉士国家試験における合格者受験番号の訂正について
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000027qug.html

この方も、前の年の受験票で受験し、しかもそれに気づかずに試験が終了して不合格になったものを、後で追加合格になったようだ。いまは解答用紙に受験番号や氏名が印刷されてしまっているので、同じことは起こりえない(自分と同じように試験開始前の自己チェックで気がつくはずだ)。

[自己採点]

会場の出口で藤仁館学園がチラシを配っていた。ここはいつも解答例の発表が早い。当日の夜には自己採点が始めることができた。翌日以降、次々といろいろなところから発表がなされていった。解答のばらけについてはこちらのエントリを見ていただきたい。

第25回精神保健福祉士試験 専門科目の割れ問
https://utsubotsu2.blog.ss-blog.jp/2023-02-10

十分な点数が取れていたので、ほっとした。

[費用]

かかった費用を列挙しておく。

 ①入学選考料 10,000
 ②短期養成課程学費 220,000
  (内訳は入学金30,000、授業料140,000、面接授業参加費50,000)
 ③教科書9冊 23,100
 ④受験手数料 18,820
 ⑤過去問問題集1冊 4,400 + ワークブック 3,520
この他に、合格後の登録手続きに、
 ⑥登録免許税 15,000
 ⑦登録手数料 4,050
合計 298,890

③は妻のお古を使わせてもらい、足りなかった1冊を新刊で2,970円で購入した。従ってマイナス20,130
 実質合計 278,760

さらに訓練給付金がミスなく満額受給できていれば、②の半額の11万円を減じて
 168,760
で済んだはずだ。しかし、受給ミスがあったので47,500円を受給できず
 216,620
かかってしまった。

もちろん、この他にも交通費(ハローワーク・面接授業・受験)、入学申込みや受験申込みに使う写真代、住民票の写しの取得費用、各種費用の振り込み手数料(入学選考料、学費、登録手数料)も必要だった。面接授業会場や受験会場から遠くに住んでいる人は、そのための旅費もかかるであろうが、地理的に近くに住んでいて助かった。

これから短期養成課程で精神保健福祉士の資格を取ろうという人の目安にしていただければ幸いである。

[最後に]

一つ確実に言えることがあるとすれば、受験票を忘れても、違う受験票を持って行ったとしても、諦めて帰ってはいけない、ということである。
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第35回 社会福祉士試験 合格率44.2%の衝撃 [社会福祉]

精神保健福祉士の試験は合格することができた。その経過についてはまた別のエントリを設ける予定。

■ 社会福祉士試験 合格率44.2%の衝撃

さて、今年(2023年)2月の社会福祉士試験の合格基準は90点だった。

合格基準は「問題の総得点の60%程度を基準として、問題の難易度で補正した点数」と決められている。現カリキュラムが採用された2010年(第22回)以降、ぴったり90点ということはなかったが、例年90点前後であった。――例外は2013年(第25回)の72点と208年(第30回)の99点だ。

それが昨年第34回では、105点というそれまでにない高水準だった。この数字は、100点取れば合格と信じていた人たちや、90点+αでもまだ合格の可能性があると信じていた人たちを、絶望の淵にたたき落とした。いったい何点取ればいいのかと。

しかし、年度間の公平性を保つために合格率を30%程度に維持するという点で、昨年の105点は妥当だという記事を昨年書いた。
(その記事内の表とグラフが間違っていたので訂正しておいた)。

■ 今年も高い合格水準が予想された

赤マル福祉のWeb自動採点は、多くの人が利用する自己採点ツールだ。

自己採点を使った人の平均点は、2月7日の時点で107.8点、3月15日時点で106.1点だった。
この平均点は、実際に受験した人の平均点を大きく上回るのが普通だ。なぜなら、試験の出来が悪かった人は採点するまでもないと考えるからだ。

毎年、赤マル福祉の自己採点の平均点と合格基準の点数の差は±3点の範囲に収まってきた。昨年も、赤マル福祉の平均点が106.1点で、合格基準が105点だった。

そのため、今年も合格基準は105点前後、少なくとも100点を超えるという予想が多かった。しかし、蓋を開けてみたら、なんと90点だったのである。結果として合格率は44.2%と例年の3割の1.5倍にもなった。

社会福祉士試験の合格基準と合格率

■ なぜに90点

前の記事にも書いたが、昨年の105点という合格基準を受けて、日本社会福祉士会、日本ソーシャルワーク教育学校連盟(ソ教連)から「もし上位30%ラインでの基準調整がされているなら、それを廃して6割程度以上を得点した者はすべて合格とすべし」という声明が出された。

(私は知らなかったが、99点だった第30回の後にもソ教連の会長談話が発表され、「60%の得点(90点)を著しく上回ることのないようにすべき」と言っている。)

今回の90点というのは、まさにその声明に沿った基準だと言える。専門科目のみの合格基準も、精神保健福祉士試験の合格基準もきっちり6割となっていた。

社会福祉振興・試験センターが声明の意図を汲んで、合格基準を6割にした背景はなんだろうか?

受験者数と合格者数

社会福祉士試験の受験者数は、2017年(第29回)の45,849人をピークに毎年減り続けてきた。その理由は明らかで、福祉系大学の新卒受験者が2010年(第22回)には14,199人いたのが、2020年頃には8,000人あまりにまで減ってしまったからである(短大卒+実務経験ルートでの受験者も減っている)。

福祉系大学卒の受験者は、新卒時の合格率は5割程度とまずまずなのだが、2回目以降の受験者(既卒受験者)の合格率は十数%と低いのである。四年制大学の福祉学部をを卒業したのに、結局社会福祉士資格を取らずも結構いるのだろう。

学部は出たものの資格が取れない、という人が多ければ学部の人気に影響が出る。学生の数が減るのは大学にとっては死活問題だ。そして、試験の受験者数が減るということは、合格者も減り、社会に供給される社会福祉士の数も減ってしまう。

合格率をアップさせることは、当座の社会福祉士の供給数を増やし、大学の学生増にも寄与するだろう。

社会福祉士試験の合格率が3割と低めに設定されてきたのが、高度な教育を受けた専門職という社会的評価を確立するためだったとするならば、学生数の減少という現実によって、その高い理想を取り下げた、と言えるのかもしれない。

■ 44.2%の衝撃

むしろ90点という合格基準にもかかわらず、合格率が44.2%にしか達しなかった、ということのほうが驚きである。赤マル福祉の平均点が106点ならば、合格基準を90点としたら、合格率は5割を優に超えるだろうと思ったものだ(7割ということもあるかもしれないとも)。しかし、44.2%だったのである。

これは、今回の試験の平均点が90点以下だということを意味する。

社会福祉士試験の得点分布は公表されていないが、赤マル福祉の自己採点ではその平均点前後に密集している。だが、受験者全体では、ずっと低い点数を取っている受験者がかなり多くいて、平均点を押し下げているということになる。(赤マル福祉の自己採点の得点分布には、実は30点あたりに小さなピークがある)。

合格基準を下げても、合格率が1.5倍にしかならなかった、50%を越えなかったということの方が衝撃だったのである。

調べてみると、2回目以降の受験者(既卒受験者)の合格率が低いのは学部卒だけではなかった。社会人向けには短期養成(9か月)と一般養成(18か月)の課程があるが、どちらも2回目以降の受験者の合格率はここ数年十数%だった。それが今年は、学部卒・短期養成・一般養成ともに約3割まで増えた。しかし、3割にまでしか増えなかったとも言える。

得点分布が正規分布になっているはずだ、という思い込みがあったのだが、実はロングテール形状をしているようなのだ。
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子ども家庭福祉ソーシャルワーカー資格の制度化 [社会福祉]

子ども家庭福祉ソーシャルワーカー(仮称)資格の制度化が進められている。昨年(2022年)に厚生労働省の子ども家庭局の下で検討会が開かれた。

子ども家庭福祉の認定資格の取得に係る研修等に関する検討会
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-kodomo_554389_00026.html

検討会の開催は一回だけで、実質的な討議はその子会議であるワーキングループで行なわれた。

子ども家庭福祉の認定資格の取得に係る研修等に関する検討会ワーキンググループ
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-kodomo_554389_00028.html

2023年2月8日の会議で、検討会のとりまとめ案が提出されたので、実質的な審議はこれで終了し、今後は省内での作業が進められ、今年中には認定機関や研修機関の選定が行なわれるだろう。そして来年(2024年)4月以降に、研修の募集が告知され、年末か年度末までに認定試験が実施されることになると思われる。

ここでは、検討会やワーキンググループの資料から、この資格取得の条件などを見ていこう。

■ 資格取得ルート

route-cfsw.jpg

取得ルートは大まかに分けて二つある。有資格者ルートと現任者ルートである。

相談援助有資格者ルートは、社会福祉士や精神保健福祉士が「こども又はその家庭に対する相談援助」(子ども家庭福祉の相談援助)業務を2年以上行ない、さらに指定研修を受けて、試験を受験する。次の現任者ルートは経過措置として設けられるものなので、その期間が経過後は、有資格者ルートのみになる。

現任者ルートは二つあり、一つは相談援助実務経験者ルートだ。これは特に資格は持っていなくても、子ども家庭福祉の相談援助の実務経験が4年以上ある人が、ソーシャルワークに関する研修と指定研修を受けて試験を受験するもの。

もう一つは保育所保育士ルートで、実務経験が4年以上ある保育士が、ソーシャルワークに関する研修と指定研修を受けて試験を受験するもの。

この二つの現任者ルートは前述の通り「当分の間の経過措置」なので、その期間が終了すればこのルートでの資格取得はできなくなる。「当分の間」の長さについては資料の中に記述がないが、他の資格の現任者向け経過措置がたいてい5年間なので、5年間である可能性が高いだろう。

■ 実務経験として認められる施設

有資格者ルート相談援助実務経験者ルートでは、「こども家庭福祉の相談援助業務を含む相談援助」の実務経験が必要になる。必要な年数はそれぞれ2年と4年だ。

実務経験として認められる施設は、児童福祉司任用資格の実務経験として認められる施設と基本的に同じ範囲が挙げられている(下記 とりまとめ資料編表2参照)。

この表2では施設を二種類に分類していて、児童相談所や児童養護施設など子ども家庭福祉の相談を行う施設ではその施設に勤務した証明があるだけで良い。その他の施設では勤務の証明だけでなく子ども又はその家庭に関する支援に従事していたことの証明も必要になる。

■ 実務経験として認められる範囲

有資格者ルートの場合には、業務量については問わないことになっている。つまり業務の中にこども家庭福祉の相談援助業務が含まれていれば、その比率は問わないということだ(ゼロでなければ良い?)。それが一定程度に満たない人たちは、追加研修を受ける必要がある。

相談援助実務経験者ルートの場合には、「その比率は問わない」の文がないので、必ず一定程度の相談援助業務の経験が必要になる。

この一定程度はどれぐらいなのか? 資料中に「5割」という例が示されていることや、児童福祉司任用資格の通達に「年間を通じた勤務時間の概ね5割以上従事した」という表現があることから、5割が目安になるだろう。

保育所保育士ルートの場合には、「要支援児童等対応推進事業」における地域連携推進員(かつて保育ソーシャルワーカーと呼ばれていたもの)の経験が4年以上あるか、保育所長・主任保育士または副主任保育士等としてこども家庭福祉の相談援助業務を含む業務に4年以上従事した必要がある。

■ 研修

すべてのルートで共通して、子ども家庭福祉指定研修(指定研修)を受ける必要がある。時間は100時間程度だ。

有資格者ルートで、こども家庭福祉の相談援助業務の比率が一定程度(5割?)に満たない人は、追加の研修を受ける必要がある。追加研修の内容については「要保護児童対策調整機関の調整担当者の法定研修」を参照とあるので、30時間弱になりそうだ。

相談援助実務経験者ルート保育所保育士ルートの場合には、ソーシャルワークに関する研修(SW研修)を受ける必要がある。時間は100時間程度になる。

従って、総研修時間はコースにより、人により違い、指定研修100時間のみ、指定研修100時間+追加研修30時間、SW研修100時間+指定研修100時間、の3パターン生じるはずだ。

研修の実施方法だが、
  • 講義については、対面での授業実施も可能としつつ、インターネット等を活用したライブ配信等・オンデマンド形式等による講義を可能とする
  • 演習については、原則対面での実施としつつも、内容によってはインターネット等を活用したライブ配信等 を可能とする
  • 見学実習については、原則として対面で実施する
となっている。

見学実習については全時間出席とレポート提出が必須とされているが、講義と演習については出席率や欠席時のレポート提出などの定めを国や認定機関は設けないとされている(研修の実施機関で定めることはあるかもしれない)。

■ 資格の名称

こども家庭ソーシャルワーカーで決まりのようだ。
英語表記は CFSW (Children and Family Social Worker) となる。

■ 今後

前述のワーキンググル-プはとりまとめに入ったので、今後は厚生労働省での作業に移ることになる。4月以降には省令などが整備され、認定機関が指定され、研修の受講者の募集が始まるだろう。

そして、おそらく来年(2024年)4月以降に研修が始まり、年度末までには試験と結果発表が行なわれ、2024年度中には新資格保有者が誕生することになる。

■ とりまとめ資料編表2

「相談援助の実務経験の範囲として認められる施設(例)」

こども又はその家庭に対する支援を行っている旨の証明をせずとも、実務経験として認められるもの
(児童福祉法)
 ・児童相談所
 ・母子生活支援施設
 ・児童養護施設
 ・障害児入所施設
 ・児童発達支援センター
 ・児童心理治療施設(旧情緒障害児短期治療施設)
 ・児童自立支援施設
 ・障害児通所支援事業を行う施設
 ・障害児相談支援事業を行う施設
 ・乳児院
 ・児童自立生活援助事業を行っている施設(児童居宅生活援助事業)
 ・子育て短期支援事業を行っている施設
 ・児童家庭支援センター
 ・こども家庭総合支援拠点
(学校教育法)
 ・教育機関
(母子健康法)
 ・子育て世代包括支援センター
(その他)
 ・その他都道府県又は市町村の児童家庭相談業務を行う部署

こども又はその家庭に対する支援を行っている旨の証明をした場合に、実務経験として認められるもの
(地域保険法)
 ・保健所
(医療法)
 ・病院及び診療所
(身体障害者福祉法)
 ・身体障害者更生相談所
(精神保健福祉法)
 ・精神保健福祉センター
(生活保護法)
 ・救護施設
 ・更生施設
 ・授産施設
 ・宿所提供施設
(社会福祉法)
 ・福祉に関する事務所
(売春防止法)
 ・婦人相談所
 ・婦人保護施設
(知的障害者福祉法)
 ・知的障害者更生相談所
(老人福祉法)
 ・養護老人ホーム
 ・特別養護老人ホーム
 ・軽費老人ホーム
 ・老人福祉センター
 ・老人短期入所施設
 ・老人デイサービスセンター
 ・老人介護支援センター
 ・老人ホーム
(母子及び父子並びに寡婦福祉法)
 ・母子・父子福祉センター
(介護保険法)
 ・介護保険施設
 ・指定介護療養型医療施設
 ・地域包括支援センター
(障害者総合支援法)
 ・障害者支援施設
 ・地域活動支援センタ-
 ・福祉ホーム
 ・障害福祉サービス事業
 ・一般相談支援事業を行う施設
 ・特定相談支援事業を行う施設
(刑事収容施設法)
 ・刑事施設
(少年院法)
 ・少年院
(少年鑑別所法)
 ・少年鑑別所
(更生保護事業法)
 ・更生保護施設
(更生保護法)
 ・保護観察所
(その他の法律)
 ・「精神障害者地域移行支援特別対策事業」を行っていた施設
 ・地域若者サポートステーション(青少年雇用促進法)
 ・こども・若者総合相談センター(子ども・若者育成支援推進法)

(法律名を書き足しておいた)
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第25回精神保健福祉士試験 専門科目の割れ問 [社会福祉]

ほぼ自分用のメモ:

2023年3月7日 正答の発表があったので、正答を書き加えた。

第25回精神保健福祉士試験の解答例を発表しているのは、
藤仁館医療福祉カレッジ
けあサポ(中央法規)
赤マル福祉(ジェーシー教育研究所)
広島福祉専門学校
ふくし合格ネット
カイゴジョブ(エス・エム・エス)
フチガミ医療専門学校

概ね発表の早い順に並べた。藤仁館は試験実施日の夜には解答例を発表してくれる。
問題文はけあサポのページにスキャンしたPDFが掲載されている

以下は割れ問:

問題2 神経性大食症の過食に対する不適切な代償行為
× 1 虚言
 - フチガミ
3 緩下剤乱用
 - 藤仁館・けあサポ・赤マル福祉・広島福祉・ふくし合格・カイゴジョブ

問題28 権利擁護における発見機能
× 4 市民を対象とした精神保健福祉講座の運営を通して,精神障害に対する理解を求める。
 - 藤仁館・赤マル福祉
5 長期入院にあるクライエントに対し,地域生活のイメージを描けるような働きかけを行う。
 - けあサポ・広島福祉・ふくし合格・カイゴジョブ・フチガミ

問題30 声かけの根拠となるソーシャルワークの価値
× 2 人間の社会性
 - 藤仁館・フチガミ
4 変化の可能性
 - けあサポ・赤マル福祉・広島福祉・ふくし合格・カイゴジョブ

問題52 覚醒剤依存者への声かけ
2 「覚醒剤を使うことをどのように思っていますか」
 - フチガミ
× 3 「最初に,治療プログラムについて説明します」
 - 藤仁館・けあサポ・赤マル福祉・広島福祉・ふくし合格・カイゴジョブ

問題56 活用を意図したコミュニティソーシャルワークの機能
× 3 新しい社会資源の創造
 - けあサポ・広島福祉・カイゴジョブ
4 個と地域の一体的支援の展開
 - 藤仁館・赤マル福祉・ふくし合格・フチガミ

藤仁館 ○×××○ 2/5
けあサポ(中央法規) ○○○×× 3/5
赤マル福祉 ○×○×○ 3/5
広島福祉専 ○○○×× 3/5
ふくし合格ネット ○○○×○ 4/5
カイゴジョブ ○○○×× 3/5
フチガミ ×○×○○ 3/5

というわけで、ふくし合格ネットの優勝です。
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Gルートは誰のためのものだったのか? [心理の資格]

公認心理師試験は2018年から開始された。2022年の第5回試験までに、約12万人が受験し(延べ人数)、約7万2千人が合格した。受験区分は区分Aから区分Gに別れているが、受験者・合格者とも区分Gが最も多く、受験者が約8万8千人、合格者は約4万7千人だった。区分Gが受験者の約7割、合格者の2/3を占めたわけだ。

常にかすまびしいTwitter界隈では、区分Gへの批判も数多く見られた。その批判を一言でまとめるならば「本来なら受験資格のない人に受験資格が与えられている」というものだ。

そうは言っても、試験は行政上のルールに従って行なわれているのだから、本当に受験資格のない人が受験したならばそれは「不正」である。だが、批判はそのような不正行為に対してのものではなく、「ルールがおかしい」というものが大半だった。

公認心理師試験制度は長年かけて練り上げられたものだし、その過程の中で心理業界の意見を反映する機会はいくらでもあった。当時の臨床心理士の人たちの関心は「医師の指示条項」にばかり向けられていた(少なくとも外野からはそう見えた)。いざ制度が施行されてみたら、予想外の問題が生じてきたというのなら、自分の属する業界団体を通じて監督官庁に申し入れるべきことだ。Twitterで批判を繰り広げてみたところで制度が変わるわけではないし、批判している人ご自身も区分Gでの受験だったりするので、もはや批判のための批判になってしまっていた。

批判の声が大きかったのは、区分Gでの受験者・合格者が実数・比率とも大きかったためだろう(数が少なかったらたぶん無視されていた)。今回はこの「Gルート批判」について考えるエントリである。

■経過措置は誰のためのもの

SUKIMA GENERATIONSというサイトのトップページに、このような記述があった。
これまで心理職のスタンダードであった「臨床心理士資格」ホルダーが「公認心理師資格」を受験できるように5年間の移行措置期間が設けられ・・・
このサイトの趣旨は、公認心理師試験制度の隙間で受験資格を得られなかった人たちへのサポートを考えることである。その趣旨に対しては特に反対意見は持っていないが、このような「事実に反する」記述が掲載されているところに、臨床心理士の人たちの区分Gの解釈が表れている、と言ったら言いすぎだろうか?

5年間の特例処置(すなわち区分G)は、現業者のためのものであって、臨床心理士資格者のためのものではない。

「臨床心理士資格者は受験資格が与えられるべきである」とか、「臨床心理士の養成課程に準じる教育を受けていない人に受験資格が与えられるのはおかしい」という意見は、区分G制度への誤解から生じてきているのである。

■区分G

国家資格の創設時には、現業者をどうするかという問題が生じてくる(必ず生じてくると言っても過言ではない)。創設後は、その資格の養成課程で教育を受けるのがスタンダードなルートになる。だがすでにその分野で仕事をしている人たちにとっては、学校に入り直すのは現実的な選択ではない。そこで、その不公平を救済するために、現業者に対する経過措置が設けられることになる。

こちらのエントリで、公認心理師の受験区分について説明した。
公認心理師の区分Gについて

再掲になるが、医療系の資格の場合には、
 ・現に業として行なっている者(5年以上)
 ・大臣の定める講習会を受講
 ・経過措置は5年間
というのがスタンダードになっており(さらに高卒以上を要件とするものもある)、公認心理師資格もそれに準じたものとなった。なので、自分も含めて多くの人が職場で現業の証明書を書いてもらい、現任者講習会を受講することで区分Gの受験資格を得たのである(高卒の証明は要らなかった)。

この要件の中に、臨床心理士という資格を保持しているかどうかは含まれていない。したがってこの経過措置(区分G)が臨床心理士資格ホルダーが公認心理師資格を受験できるように作られたものでないことは明らかだ。

■その他の区分

chart_201912.gif

区分ABは、公認心理師法の施行以降に公認心理師の養成課程を経て受験資格を得る、といういわば「正規」のルートだ。

区分Cは、外国の大学・院などで教育を受け区分A・Bと同等以上の知識・技能を有すると認められる人たち。

区分D1/D2/E/Fには細かな違いがあるが、いずれも「科目の読み換え」によって区分A/Bと同等の養成課程を経たと見なすことができる人たちのルートだ。これによって、法の施行以前に日本の大学・院で心理学の教育を受けた人たちが受験資格を得ることになった。その多くが臨床心理士としての教育を受けた人たちであっただろうが、だがあくまでもこれらの区分は「公認心理師の養成課程と同等の教育を受けた」と見なせる人たちのためのものだ。

臨床心理士の資格をもってして受験資格に結びつける区分は用意されていないのである。

これは国家資格の制度設計としては当然のことで、正規の養成課程を用意し、それを経るか、それを経たのと同等の知識・技能を有すると認められる人たちに受験資格を与えるのである(例外は現業者のみだ)。

このルール設計が完璧だとは言わないが、「ルールがおかしい」と主張できる論拠はない。公認心理師と、臨床心理士が別の資格であることを踏まえれば、公認心理師の受験資格と「臨床心理士になるための教育を受けたかどうか」は無関係であることが分かる。

だが、この制度設計のなかには、不満を招く問題点がいくつかあったのは確かである。それについて見てみよう。

■心理学の教育を受けていない人に受験資格が与えられた

これは区分Gについて多くあった批判である。区分A/Bにしても、臨床心理士にしても、大学+院で6年の養成課程を経るのに対し、現業であったというだけで大学で心理学を学んでいない人たちにまで受験資格が与えられたというのは不公平に感じるのだろう。

公認心理師試験であっても、他の国家資格試験であっても、資格創設時の現業者に対する経過措置というのは「特例」である。特例が不公平感の対象になるのはやむを得ないところではある。

6年間の教育を受けずに受験資格を得られたわけだから、区分Gには「お得感」があった。現業者向けの講習会の費用は数万円で、これは大学+院で6年間教育を受ける費用に比べれば圧倒的に安い。そのお得感が大量の受験者・合格者を産み出し、その大量さが不公平感を増大させた、という面はあるだろう。

現業者に対する特例に対して、大学で心理学を学んだなどのある程度の心理学の教育をすでに受けていることを要件にできなかったのか? という疑問を持つ人もいた。だがそれは、法律には遡及適用しないという原則があることを考えると、法施行時点で現業であるという以外の条件を課すことは難しかろう(現業者のなかでの不公平を作り出してしまうからだ)。

結局、不公平には感じられるだろうが、制度設計としてはこれはこれで正しいと言わざるをえない。

■心理学の教育を受けていない大量の合格者によって、この資格の社会的評価が損なわれかねない

確かに、区分Gでの4万7千人ほどの合格者のなかには、心理学のたいした素養を持たない人もいるだろう。そういう人たちの言動によって「公認心理師資格はレベルが低い」という評価が世間から与えらると心配する人たちもいた。

だが、本気でそう考えているのなら、世間知らずと言わざるを得ない。世間の評価は、専門的教育を何年間受けたかどうかではなく、実際に役に立っているかどうかによって行なわれる。どこの医学部を出たかは医者の間では重要なことかもしれないが、患者の側では腕が良いか悪いかで医者を評価する。

心理畑の人にとってみれば、どれだけの教育を受け、どれだけの素養を持っているかが大事かもしれないが、世間はそんなことを気にしてはいない。クライアントが気にしているのは、自分が良くなるかどうかであり、カウンセラーがどこの大学院を出て、誰に師事しているか、それとも高卒のたたき上げなのかは気にしていないのである。

なので、これは無用な心配と言えよう。

■現業の認定が甘すぎる

医療関係の資格の場合、現業とは基本的に医療機関で働いていることなのだが、公認心理師の場合は、医療だけでなく、福祉、教育、司法、産業にまで分野が広がったため、その範囲も広いものとなった。

様々な法律を根拠法として設立された様々な施設が対象になるため、実務経験証明書には3桁の分野施設コードを記入するようになっていた。

そこで、例えば「学校で生徒の相談に乗っていた教師」だとか「福祉施設で利用者の相談に乗っていた職員」だとか「更生保護施設で虞犯少年の相談に乗っていた職員」とかが、現業者として認められることになった。果たしてそれが妥当なことかどうか・・という疑問が提示されていた。

現業とは、公認心理師法第2条1号から3号までに掲げられている業務に就いていることだ。その業務とは、要支援者に対する「心理状態の観察・分析」「心理に関する相談・助言・指導」「関係者に対する相談・助言・指導」の三つだ。これらの業務が週に1日以上あれば現業期間として認められたのだから、かなりハードルが低かったと言えるだろう。スクールカウンセラーは週1回勤務というケースが多いことも考えると、ハードルを上げるわけにはいかなかったのかもしれない。

そして、それらの業務が心理学的な専門性を持ったものかどうかを判断する基準は示されていない。また、虚偽あるいは不正な証明によって受験したとしても、合格した心理師の登録が取り消されるだけで、証明者に罰則があるわけでもない。そのことが、この判断を甘々にしてしまった可能性はある。勤務実績がなかった、みたいな明らかな虚偽は別として、行なっていた支援が心理的な支援だったかどうか、というのはあとから判断しにくいものだ。

ただ、多くの分野の施設・機関が対象になったということは、それだけ多くの分野で公認心理師が活躍することを期待されているということでもある。そして、そうした分野において期待されている心理的支援の専門性は、心理畑の人たちが自分たちの専門性だと見なしているものとはかなり食い違いがある

その食い違いを無視して、他分野の人たちが行なっている心理的支援は専門性が低いと見なすのは、独善的であるだけでなく、心理職の活躍できる範囲を自ら狭めていると言える。

すでに公認心理師資格を得た人も、これから新卒で受験して公認心理師になる人も、心理支援を専門とする機関で働ける人は一部だけで、多くは上記のような分野で心理の仕事に就くことになるだろう。心理に限らずどんな分野であれ、大学で身に付けたことが現場でそのまま役に立つことはほとんどない。現場ごとに専門性があり、それを身に付けた上で、素養として持っているものをどのようにして現場で生かしていくかが問われるのである。

現業の認定に甘さがなかったわけではないが、現場で必要とされている心理支援の専門性にも目を向ければ、非専門的な業務を現業として認めたわけではないことがわかるだろう。

■なぜGルート批判が生れたのか

Gルート批判のもとには「臨床心理士には(あるいは臨床心理士になるのと同等の教育を受けた者には)公認心理師の受験資格が与えられるべきで、それ以外の人には与えられるべきではない」という考えがあるのだろう。

現実には臨床心理士であっても(あるいは臨床心理士になるべく教育を受けている人であっても)公認心理師の受験資格が与えられない人がいて、その一方でそうした教育を受けていない大量の人たちに受験資格が与えられた。

この自分たちの理想と法律の現実のギャップがGルート批判として噴出した、と見て良いだろう。批判の内容は様々だが、批判の根源には理想と現実のギャップがあるのだ。

公認心理師資格は、もとは臨床心理士の国家資格化を進めた結果として誕生した資格である。政治的影響力を持つ医師会側は、医師の監督下で働くコメディカルとしての医療心理師の資格化を求めた。そこで、この二資格を一つの法律で実現すべく(二資格一法案)作業が進められた。そのまま実現していたならば、大学院レベルの臨床心理士と、高卒+専門学校レベルの医療心理師という二つの国家資格ができていただろう。

ところが、詳しい事情は分からないが、臨床心理士の国家資格化は途中で取りやめになってしまった。かといって、医療心理師だけでは医療以外の分野をカバーできない。そこで、二つの資格の中間的な性格をもった公認心理師が制度化されることになったわけだ。

したがって公認心理師資格は臨床心理士資格の後継ではなく、新しい資格として創設された。臨床心理士制度との連続性がないのは当然のことなのだが、そこに何かしかの連続性を期待しているからこそ、前述のような理想が生れ、その理想が不満をもたらしたと言える。

もし仮に、臨床心理士の国家資格化を諦めずに、実現できていたとしたら、そこには従前の臨床心理士制度との連続性がある程度確保され、受験資格が与えられる人と与えられない人の基準も、公認心理師資格とは違ったものになり、Gルート批判のようなものも生じにくかったに違いない。

それでもあえて臨床心理士の国家資格化を選ばなかったのだから、そのような不満というデメリットよりも、国家資格化しないことによるメリットのほうが大きいと判断したからだろう(それだけ二資格一法案は心理側にデメリットが大きかったわけだ)。Gルートに対する不満は「施行後に予想外に生じてきた問題」ではなく、あらかじめ予想されていたことも十分考えられる。予見されていたにもかかわらず、他のことを優先させるために「やむを得ないこと」と判断された、というのが真相ではないだろうか。

不満はあれどもこれが現実的に最善の選択だった、ということなのだ。

■スキマ問題の解決は・・・

さて、先頭で紹介したサイトで取り上げられているスキマ問題は、他の国家資格の創設時にも起きてきたことだ。現業の期間が5年に満たないために受験できない、というのは救済しようがない。

また、臨床心理士の課程を選んだために、公認心理師試験の受験資格が得られなくなったという人たちもいる。資格創設前には、先行きがどうなるか分からない時期があったのだから、彼らは資格創設のドタバタに振り回された被害者とも言える。現状では臨床心理士の資格だけでも心理職として働くのに特に不利にはなっていないようだが、先のことはわからない。

こういった人たちをまとめて救済する制度を作るというのも悪いアイデアではないと思う。この人たちに共通しているのは、実際に心理の仕事に就いているか、今後就くつもりであるということだ。

それならば、社会福祉士の受験ルートにもあるように、○年間の実務経験+○年間の通信制養成課程の組み合わせで受験資格を得られる仕組みを作れば良いのではないだろうか。そうすれば働きながら公認心理師資格を目指すことができる。実務経験があるのだから実習は免除すばよいし、さらに、すでに大学等で履修済みの科目(あるい読み換えられる科目)があれば、その科目は履修免除にすることもできる。

実はこのブログでアクセス数がダントツに多いのが
放送大学だけでは公認心理師になれない
というエントリだ。そのことからも、大変多くの人が、社会に出てから公認心理師を目指すことに魅力を感じていることが分かる。

そのような制度を作れば、スキマ世代を幅広く救済できるだけでなく、働きながら資格取得を目指すという人たちにも門戸が開かれることになる。多くの社会福祉の学科が、大学教育を行なうだけでなく、そのような通信課程を運営することで学科を繰り回している。今後もいっそう激しくなる少子化の時代に、心理の学部・学科を残していくためには、同様の戦略が有効なのではないだろうか。

現在の公認心理師・臨床心理士の制度の問題は、大学+院を経るのに大変高い学費が必要になるにも関わらず、専門職として収入が低い状態に置かれている人が多いことだ。そのような魅力のない状態が続けば、早晩この仕組みは維持できなくなる。だが、大学で濃密な教育を行なうという仕組みは残す必要がある。そのために大学とは別の受験ルート(通信養成課程)を作り、大学に併設するということも有効なのではないだろうか。

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どんな人が公認心理師試験を受けたのか? [心理の資格]

第5回の公認心理師試験の合格発表から約2週間後の9月4日に、日本心理研修センターから「受験申込時における調査の集計結果について」という発表があった。
http://shinri-kenshu.jp/topics/20220907_2207.html

第1回から第5回の受験申込み時の書類にあったアンケートの集計結果である。
アンケートの内容は、実務経験の長さ・保有資格・最終学歴・職業領域・勤務先の種別・主たる心理業務の内容・勤務体系(常勤・非常勤)である。アンケートへの回答率はいずれの回も8割以上である。

ざっくりExcelシートに集計してみた。
https://d.kuku.lu/5badca242

■保有資格から

保有資格を見ると、臨床心理士が、
79.8%→26.6%→14.2%→7.1%→2.3%
と最初は8割を占めていたものが、回を追うごとに急激に減少している。
臨床心理士の人たちの大半は、最初の2回で合格していったのだろう。
第1回の区分Gの比率が約5割であることからすると、臨床心理士であるにもかかわらず区分Gで受験せざるを得なかった人も多かったはずだ(たぶん1万数千人)。

では、受験者の中から急速に姿を消していった臨床心理士の代わりに、第2回以降はどんな人たちが受験していたのだろうか。

まず、教育関係――教員としての資格を持っている人および大学などで教員をしている人――の割合は、すべての回で3~4割を占めていた。常に1/3は教育関係者だったわけだ。

次に、保健医療関係の資格(医師・看護師・保健師・作業療法士)を持っている人であるが、
4.2%→10.2%→15.5%→20.4%→28.2%
と、どんどん増えてきた。ただし、医師資格者は常に1%内外である。
また、保健師は必ず看護師資格も持っているはずだ。
それを踏まえると、保健医療関係者の割合は最終的にも2割を少し超えただけだったのではないだろうか。

福祉関係の資格(精神保健福祉士・社会福祉士・介護福祉士・保育士)は、
17.8%→34.8%→41.6%→48.4%→53.1%
と、第2回以降は一大勢力になったのだが、これも注意が必要だ。三福祉士は複数の資格を持つ人も多いことを踏まえると、福祉関係者の割合は最終的にも1/3程度だったと思われる。

そして、その他の資格(内容不明)と資格無しという人たちが、毎回2割程度存在していたようだ。これはおそらく、これまで挙げた資格を持っておらず、なおかつ心理の仕事(カウンセラーなど)をしている人たちであろう。

ざっくりまとめると、
教育関係が3割(主に教師)
医療関係が2割(主に看護師)
福祉関係が3割
臨床心理師以外の心理職が2割
といったところだろうか。

おそらくこのような比率になることは、受験制度の設計時に想定されていたはずだ。もし想定と極端に外れていたとするなら、途中で何らかの修正が施されるはずだからである。

■合格者の中の臨床心理士の比率

ともあれ経過処置のある5年間は終わった。これまでの5回の試験に約12万1千人の受験者があり、そのうち約5万6千人が合格した。

一方、臨床心理士は昨年までに約4万人の合格者がいる。歴史ある資格でもあり、5年ごとの更新も必要なので、登録者数は3千~4千人ほど少なくなる。さらに、臨床心理士でも公認心理師試験を受けなかった人もおり、もちろん合格率は100%ではない。それらを踏まえると、臨床心理士で公認心理師資格を得た人は、おそらく3万人前後であり、3万人を切っている可能性の方が高いと予想する。

というわけで、第5回までの公認心理師試験の合格者の中で、臨床心理士とのダブルホルダーが半数を少し超える程度になったと思われる。


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