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公認心理師の区分Gについて [心理の資格]

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[区分A・区分B・区分C]

公認心理師になるには、四年制大学で必要な科目を履修して卒業し、さらに大学院で二年間必要な科目を履修して課程を修了する必要がある(区分A:公認心理師法7条1号)。

四年制大学で必要な科目を履修して卒業した後に、二年間の実務経験を積んで受験資格を得るルートもある(区分B:法7条2号)。ただし、実務経験として認定される施設はとても少ない。公認心理師法施行規則第5条には、幅広い施設が挙げられているので、そのなかのどれかで実務経験を積めば良いと勘違いする人もいるようだが、第5条には「文科大臣及び厚労大臣の認めるもの」という文言がある。この認定を受けるためのハードルはかなり高く、現在のところ、9施設しかない(公認心理師法第7条第2号に規定する認定施設)。

区分C(法7条3号)は外国の大学と大学院で心理学を修めた人のためのルートで、第3回試験までに17人しか受験者がいない。

というわけで、これから大学生となって公認心理師を目指す人たちにとって、選べるルートは実質的に区分Aのみと言っても言いすぎではないだろう。

さて、公認心理師法は2015年9月16日に公布され、二年後の2017年9月15日に施行された。したがって、この法律で定められた科目を大学・大学院で履修できるようになったのは、翌2018年4月からである。2018年に大学に入学した人たちが、大学院修士課程を修了するのは最短で2024年3月となる。したがって、区分Aの人たちの受験が始まるのは2024年からになる。

(ちなみに、区分Bも2022年春に大学を卒業し、2年の実務経験を積めば、最短で2024年に受験できそうだが、実際には実習プログラムの関係で最低3年かかり、2025年からになりそうだという)

[区分D1とD2]

では、それ以前に大学・大学院で心理学を修めた人たちはどうするのか? 公布日(2017年9月15日)以前に大学院を修了した人たちは、必要な科目を学ぶチャンスがなかったわけなので、救済措置として、科目の読み替えによって、受験資格を得ることができる特例が設けられた(区分D1:法付則第2条第1項第1号)。2018年の第1回試験では、受験者の48%を区分D1の人が占めた。最近の試験では1割ほどに減っている。おそらく今後も減る一方だろう。

また、公布日には大学院に在学していた人たちについても、同様に科目の読み替えによって受験資格が得られる特例が設けられた(区分D2:法付則第2条第1項第2号)。こちらも、新卒の人がいなくなるので、今後は減るだろう。

[区分E・区分F]

公布日には大学に在学していて、卒業後に公認心理師向けの大学院に進んだ人たちも、大学での科目は読み替えで受験資格を得られる特例が設けられた(区分E:法付則第2条第1項第3号)。区分Eの人たちが大学院を修了して受験するのは、2020年と2021年の試験であり、その後は減るはずだ。

そして、公布日には大学に在学していて、卒業後に区分Bと同じ施設で実務経験を二年積んだ人のために区分Fが設けられている(法付則第2条第1項第4号)。しかしこれも区分B同様の狭き門だろう。

[区分G]

最も取り沙汰されているのは、区分Gである(法付則第2条第2項)。これは別名「現任者」と呼ばれる区分で、実務経験のある人に受験資格を与えたものだ。大学や大学院で心理についての教育を受けたことは条件にされなかったので、「心理を学んだことのない者に受験資格を与えている」として、大いに批判されたものだ。しかし、多くの国家資格において、その創設時に現業者を救済する措置が行われており、公認心理師試験に限ったことではない。

例として、医療関係の国家資格について、同様の経過措置が設けられたものを挙げておく。

資格 根拠法 法令(e-Gov)
理学療法士
作業療法士
理学療法士及び作業療法士法 昭和40年法律第137号
視能訓練士 視能訓練士法 昭和46年法律第64号
臨床工学技士 臨床工学技士法 昭和62年法律第60号
義肢装具士 義肢装具士法 昭和62年法律第61号
言語聴覚士 言語聴覚士法 平成9年法律第132号

いずれも、現に業として行なつている者(五年以上)高卒以上大臣の定める講習会を受講という条件がつけられ、経過措置の期間が五年間限りというのも公認心理師法と同じだ。法律は整合性を持たせることが必要であり、これらの法律において現業者への救済措置に専門的教育という条件を加えなかったのであるから、公認心理師だけにその条件を求めることはできない(その必要があるというのなら、法案作成の段階でその根拠を示す必要があった)。であるからして、現業者への経過措置に対して「心理を学んだことのない者に受験資格を与えている」という批判は的外れである。

むしろ、現業者として認める範囲を広くとったことのほうが区分Gの受験者を増やした原因だろう。上記の医療系資格の場合には、現業であるとは「病院、診療所その他省令で定める施設において、医師の指示の下に」業を行うという表現が付則にある。だから現業者であることは、管理者である院長(つまり医師が証明していた。しかし、心理師の業務は医療分野だけに限らない。となると、医療以外の分野での現任者の範囲をどうするかは、法案作成段階での調整が重要になる。業界団体の政治力次第であろう。

法案成立前後のことを振り返ってみると、話題になっていたのは「医師の指示条項」をどうするかという話ばかりだった。(私は門外漢であるから、実際には他のことにも関心が向けられていたことを知らないだけかもしれないが)。現任者の範囲をどうするかとか、誰が現業の証明をするのか、なんてことに関心を持って発信している臨床心理士はいなかったように思う。むしろ、精神保健福祉士の人たちが、自分たちに受験資格が与えられるかどうか気を揉んでいた。

MSW(医療ソーシャルワーカー)が資格化されなかった事情」というエントリでも書いたが、国家資格の創設時には、関係者の様々な思惑がせめぎ合うことになる。あの時、臨床心理士の人たちが「医師の指示条項」ばかりに関心を向けていたのであれば、その他の条項には他分野の人たちの思惑が強く反映される結果となるのは当然だ。法律というのはできてしまうと変更するのは難しい(政府案が発表された時点でと言っても良い)。区分Gに対する臨床心理士の人たちの不満も心情的には理解できるのだが、臨床心理士以外の人からすれば「今ごろなにを言っているのか」という冷めた見方しかできなくて当然だろう。

むしろ、時限措置とは言え大量に生み出された区分Gの(心理を学んだことのない)人たちに、現業を行いながら心理を学ばせ、実習を行うにはどうすれば良いかを考えた方が前向きだろう。

話は脇に逸れるが、2024年以降、毎年何人が区分A(新卒)で公認心理師試験に合格するのかを予想してみよう。これまでの3年間で区分D2および区分Eで約5,500人が受験し、合格率は68%だ。年あたり1,200人強の合格者だ。一方、臨床心理士は(新卒・既卒あわせて)年に二千数百人が受験し、2/3ほどが合格している。それらを踏まえて考えると、区分Aの合格者は毎年千数百人というレベルにになりそうな感じである。

それに対して、区分Gの合格者はすでに22,460人もいて、今後さらに第4回・第5回試験で増えることになる。少なくとも3万人には達するだろう。実に新卒20年分ぐらいに相当する数だ。その多くは心理検査もその結果の評価法も学んだことのない人たちだろう。心理の人たちにとってみれば、この層への教育を行うのは大きなビジネスチャンスに違いない。目ざとい人たちの草刈場になっていてもおかしくないのだが、あまりそういう話も聞かない。まあ、競走馬の調教ばかりやってきた人たちに、いきなり野生馬をつかまえて馴致しろと言うのも無茶かも知れないが。

[子ども家庭福祉士]

現在、子ども家庭福祉士という児童分野の福祉士の資格創設についての議論が進んでいる。精神保健福祉士と並ぶ児童分野のスペーシフィックなソーシャルワーカーという位置づけ(つまり並列)という案と、スクールソーシャルワーカーのように社会福祉士に上乗せする案が対立している。どのような決着になるのかも気になっている。

子ども家庭福祉に関し専門的な知識・技術を必要とする支援を行う者の資格の在り方その他資質の向上策に関するワーキンググループ (2021/3/25 ワーキンググループへのリンクが間違っていたので修正した)

報告書は両論併記になった。ということは、例によって「業界団体の合意が得られなかった」という理由で資格創設は先送りになったわけだ。続きは社会保障審議会の社会的養育専門委員会で議論されるという。

参考リンク:
公認心理師法 (平成二十七年法律第六十八号)
公認心理師法に基づく指定試験機関及び指定登録機関に関する省令 (平成二十八年文部科学省・厚生労働省令第一号)
公認心理師法施行令 (平成二十九年政令第二百四十三号)
公認心理師法施行規則 (平成二十九年文部科学省・厚生労働省令第三号)

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